*10*


 どんよりと暗い曇り空の下。

エルマとメオラ、カル、そしてラシェルは雨にぬかるんだ道を馬車に揺られて進んでいた。



 傷の最もひどいラシェルは、もう長いこと馬車に揺られて辛そうにしている。

だが、何度も休憩を勧めるエルマやメオラに、ラシェルはただの一度も頷かなった。



――王城へ帰る。



 ラシェルがそう言ったのは前日の晩――刺客の襲撃があった日の三日後のことだ。



 当然ながら全員が反対した。

ラシェルはまだ当分安静にしていなければならないし、手負いのラシェルが王城に着けば、王妃にまたとない王子暗殺の機会を与えることとなる。



 だが、ラシェルは「リヒターが心配だ」の一点張りで、頑として譲らなかった。



 ラシェルの怪我はかなりひどく、ただの町医者が診るには限界があった。

そこでギドは王城から医務官を呼んだわけだが、そのときにラシェルの身に起きたことを報告しなければならなかったのだ。

王妃の刺客であることは伏せてあったが、やはり誰もが王妃やリヒターを疑う。

そうなると、ラシェル派の者たちが焦ってリヒターをどうにかしようとしないとも限らない。



 さらなる刺客の襲撃に備えるため、ラグとカーム、テオ、そしてギドがつけてくれた数人の騎士たちは、エルマたちの乗る馬車を囲むように馬で並走している。