「このまま王城に戻っても、きっと王妃がいろいろと策を弄してあなたを殺そうとする。だって、日が経つにつれてあなたの即位が近づくんだもの。王妃は焦っているはずよ」



 そんな醜い争いからこのひとが逃れて、エルマやラグやカルと一緒に穏やかに暮らしていけたら、どんなに素敵だろう。

このひとが、ずっとそばで笑っていてくれたら。

――でもきっと、ラシェルは頷かない。



「それもいいかもしれない。……でも」



 案の定最後につけられた「でも」に、メオラはただ静かに絶望する。



「リヒターをおいて、おれだけが王子の責任から逃れるわけにはいかないからな」



 かすれた声で、しかし決然と言ったラシェルに、メオラは「そう言うと思った」と呟いて立ち上がった。



「わたし、お腹がすいたから夕食にするわ。……ラシェルはゆっくり休んで」



 そう言い残して、メオラはラシェルの返事も聞かずに部屋を出て行く。

そして静かに扉を閉めると、そこにもたれて深く息を吐いた。



 すぐにそこから立ち去りたかったのに、足に力が入らなくて歩き出せなかった。



 しならくそこで突っ立っていると。