*9*


――守れなかった。



 きっと、エルマはそう思っているんだろうな。

ラシェルの寝顔を見ながら、メオラはそう思った。



 エルマのせいじゃないのに。

呟きながら、メオラは眠るラシェルの頬を指で弾いてみる。

それでも目を覚まさないラシェルに、ほんのすこし落胆した。



 顔色の悪い真っ白な寝顔が、痛い。

ついさっきやっと規則正しくなった寝息を、もう何回数えただろう。



 そっと、メオラはラシェルの袖をつかむ。

――在るべきものがなく、からっぽの袖を。



 あなたが悪いんだからね、と、メオラは心の中でラシェルを責める。

あなたが敵に変な同情をするから。ほんと、バカ。



 しばらくそうしてラシェルをなじっていたが、途中でむなしくなってやめた。



 頭をからっぽにしてじっとしていると、外のざわめきがやけに大きく聞こえる。



 今メオラがいるのは、ギドの屋敷だ。

あの後すぐにラグがラシェルを屋敷に運んで医者を呼ばせ、ラシェルは一命を取りとめた。



 昼中ずっと熱と痛みに苦しんでいたラシェルが、夕方になってようやく落ち着いて眠りに落ちた後、メオラだけがこの部屋に残って他の者は皆出て行ってしまった。

ラグがラシェルよりも蒼白になったエルマを連れ出し、カルは自分も医者にみてもらいに行ったのだ。