それを見て、その場にいた全員が息を呑んだ。

――刺客の男に切り裂かれた手のひらの傷が赤く腫れて盛り上がっていたのだ。



「まさか、剣に毒が……!」



 驚愕の表情を浮かべてエルマが言うと、ラグはすぐさま刺客の男に短剣を突きつける。



「解毒薬は」



 いつものほほんとした顔を険しくして言うラグに、刺客の男は虚ろな目をして「ない」と答えた。



「なら、何の毒を塗った?」と重ねて問うラグに、男は薄く笑う。



 そして次の瞬間、男は突然全身を激しく痙攣させ、白目をむいて口から泡を吹き、絶命した。



 ラグがとっさにその右手を見ると、手のひらに二筋の赤く腫れた傷があった。

――ちょうど、小刀を右手のひらに握り込んだように。



「まさかこいつ、ラシェルが近ずく前にすでに自分で傷をつけていたのか……」



 唖然とした一同に、蒼白になったメオラが口調だけは冷静に言う。



「何の毒かもわからず解毒薬もないのなら……体に毒がまわりきる前に、腕を切り落とすしかない」



 言いながら、メオラはすでに自分の衣装の裾を裂いてラシェルの腕にきつく巻きつけていた。

少しでも毒のまわりを遅くするためだ。