「アルの民の中に、身分の差なんてない。元農民も元貴族も、国を追われた者たちが身を寄せ合って、等しく流浪の民として生きる。それが、アルの民だろ。違う?」



「……違わ、ない」



「だったら、エルマが元王族だろうが、今はアルの長のエルマだ。アルのみんなも、それをちゃんとわかってる。エルマのことを嫌ったりしないよ」



 気休めではなく、本心からの言葉だった。

エルマの出自を知ったところで、それによってエルマへの感情が変わる者など、アルにはいない。

そう、ラグは確信を持って言える。


それはエルマも同じなのだろう。

不安そうだった顔が、すこしずつ和らいでいく。



 動揺して不安に駆られはしたが、エルマだって長としてアルの民一人一人をよく見て、よく理解しているのだ。



 エルマはラグの目を見て、すこし照れたような笑みを浮かべた。



「なんか、情けないな。……落ち着いて考えてみれば簡単なことだったのに」



 第一、じい様の言ったことが本当のことかもわからないのに。と、エルマは苦笑する。

そして、「取り乱してすまなかった、ラグ」と、小さく頭を下げた。



 いつものエルマに戻ってしまったことをすこしだけ残念に思いながら、ラグは首を横に振る。


「謝るようなことじゃないよ」


 それに、可愛かったし。

なんてことをエルマに言えるわけもないけれど。