「俺の故郷の言葉なんですよ。旅立つ者があるときに、みんなで唱える祈りの言葉です」



「へぇ。なんて彫ってあるんだ?」



 ラグが遠い目をする。

その視線の先には、彼がもう戻れない、懐かしく暖かな故郷の景色があるのだろう。


エルマはアルの長として、一族の者のそういう目をいくつも見てきた。




「『貴方の道に追い風と一輪の花を』」




 エルマは一拍の間、息を止めた。

ラグの声が揺れているような気がした。



「素敵な言葉だな」



 言って、エルマは首飾りをぎゅっと握りしめた。


 ちょうどそのとき、野営地から「ごはんだよー!」と叫ぶメオラの声が聞こえた。



「あ、ごはんですって。行きましょうか、族長」と、ラグが手を差し伸べた。

もう声は、揺れていない。


 エルマはその手をとって荷馬車から降り、野営地へ歩き出したが、ふと少し後ろを歩くラグを振り向いて立ち止まった。



「ラグ、忘れてた」


「はい?」



 きょとんとするラグに、表情の変化が少ない顔を珍しく満面の笑みにして、エルマは言った。



「首飾りありがとう。大事にする」



 それを見て、ラグは心なしか頬を少しだけ赤くしながら笑った。