「ああ、イロに言われたんだ。

おれには威厳が足りないと。

だからできる限りえらそうにしてみたんだが、……慣れないことをしてはいけないな。

悪ふざけが過ぎて、メオラにはえらく嫌われた」



 参った参った、と苦笑するラシェルを、メオラは不覚にも、すこし可愛いと思ってしまう。



「そうね」だから、それをごまかすように顔をプイと背けた。

「ほんっとに嫌なヤツだと思っていたわ」



「思っていた、ということは、今はそう思っていないという意味でとって構わないか?」


 ニッと笑ってみせるラシェルに、メオラはため息をついた。



「前向きでけっこうなことね」


「だろう。おれの唯一の取り柄なんだ」


「未来の王様の唯一の取り柄がそれでいいのかしら」


「王が無能でも、おれは臣下と弟に恵まれているから」


「だったら、優秀な弟が王位についたらいいんじゃない?」


「おれはそれでも構わないが、なにしろ人望が厚くてな。周りがほうっておいてくれない」



 しれっとそんなことを言うラシェルに、メオラは苦笑した。

ああ言えばこう言う。どうやらラシェルには勝てないらしい。



 まったくもう、と怒った顔を作りながら、それでもメオラは、今の時間をすこし楽しいと思っていた。