「ねえ、今思ったんだけど、あなたって普段は上品な話し方をするけど、たまにそれが崩れるわよね」



「崩れる?」



「ええ。庶民っぽくなるというか……今さっきも、情けねえな、って」



 違和感を覚えたのだ。

ラシェルならば「情けないな」と言いそうなものなのに、と。



「ああ、」ラシェルは苦笑した。「つい、癖で」



「癖?」



「ああ。ここだけの話だが、幼い頃によく城を抜け出して城下に下りていたんだ。庶民のふりをしてな」



 へえ、と、メオラは目を丸くする。すこし意外だった。



「どうして、そんなことを?」



「国を見てみたかったから」


 と、ラシェルは答える。



「城の中だけがおれの国じゃない。

おれの守るべき国は、城の外に広がってるんだ。

自分が守るべき国を、自分の足で歩いて、自分の目で見ておきたかった。

この国に足りないものは何か、おれがするべきことは何か、そういうのは、城の中にこもっていてもわからない」



 そう語るラシェルの横顔を、メオラはそっと見上げる。

どこか遠く、地平の彼方を見やるようなラシェルの眼差しに、なぜだかすこし、胸が締めつけられた。