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 起きだした女たちが朝餉の準備を始めたのか、出発の準備を整えるエルマの鼻先に、美味しそうな匂いが漂ってきた。


すると、それにつられたように、一人また一人と寝床から起き上がり、野営地はまた賑わいだした。



 それぞれ作業をしたり談笑したりする中、エルマのいる荷馬車に顔を出す者がいた。



「族長ー」



 呼ばれて品車から顔を出すと、ラグがやってくるところだった。



「ラグ、どうかした?」



 御者台に座ったまま問いかけたエルマに、ラグはポケットから何かを取り出し、エルマに渡した。



 首飾りだ。



 何かの動物の角か牙の先に細かい紋様を彫刻して革紐を通した簡素なものだ。


長さは大人の中指の関節二つ分ほどで、滑らかに削られている。

白磁の骨に刻まれた紋様は、どこかの国の文字のようだ。



「昨日族長が捕ってきた鹿の角の先端で、作ってみたんですよ。お守りです」



 ラグは照れたように、人差し指で頬を掻いた。



「これは、ラグが彫ったのか?」



 文字のような紋様を指でなぞりながら訊くと、ラグが得意そうに笑った。



「昨日一晩かけて仕上げたんです。我ながら、なかなかのもんでしょう」



「うん。すごい。ラグにこんな特技があったなんて」



 首飾りを首に掛けながらエルマは言った。