「なんだ、これは……」



 愕然とした様子のラシェルの呟きに、答えを持つ者はいない。


第一、驚くのも今さらだ。

王子殿下が来たというのに、領主の案内も領民からの歓迎の出迎えもないというのが、そもそもおかしいのだ。



 ラシェルたち一行は小高い丘の上に建つ領主の館にたどり着くと、出迎えできなかったことを平謝りする家臣をなだめてすぐに領主の部屋に案内させた。



 領主の部屋に通されたのはラシェルとエルマ、そして護衛であるカルだけだ。


それ以外の「侍従」は別室で待機となる。



「お出迎えもご案内もできず、たいへん申し訳ございません、殿下」



 本当に申し訳なさそうな顔でそう言ったクランドル侯は、青い顔をして寝台に横たわっていた。



「いや、まさか侯が病に伏せているとは知らず。加減はいかがか」



 心配そうに眉をひそめて尋ねるラシェルに、クランドル侯は小さく笑ってみせる。



「お心遣い感謝します。ご心配には及びませんよ。して……そちらの方は」



「ああ、紹介しよう。こちらはルドリア。噂は聞いているだろう」



「はい。近々ラシェル殿下とご結婚される姫君ですね」



 クランドル侯は破顔すると、エルマに向き直った。



「お初にお目にかかります。私はギド・クランドルと申します」



「ルドリア・アンバーと申します。以後、お見知り置きを」