それでも毎年、アルの長がシュロスに赴くのは、

流浪の民であるために生活の苦しいアルにとって、やはり夏市での商売で得られる利が魅力的であるからだ。



 そして今年もまた、アルの長はシュロスへ行く。


昨年まではそれはカームの役目だったが、エルマが十五歳になり、成人を迎えた今年は、新しい長であるエルマの役目になった。



(アルのために、今年こそは許可証を持って帰りたい)



 もちろん、容易なことではない。

剛勇と名を馳せ、シュタインの将軍も憧れるというカームでさえ、許可証発行を承認されなかった。エルマのようなただの娘に何ができるだろう。



(それでも)



 エルマはカームの顔を思い浮かべた。



 エルマはカームの実子ではない。

アルの民から生まれた子ではない。

生まれたばかりの頃、戦場に捨てられたエルマを拾い育ててくれたのがカームだ。

一族の者たちは、カームの実子でないことを知りながらも、エルマを長として慕ってくれている。



(皆のために、できるかぎりのことをしよう)



 エルマは荷を固定するための皮帯を、きつく締めた。