「べつに、恋愛に身分差なんか関係ねえだろ」


「馬鹿を言え。大いにある!」


「そうか? おまえも辛い恋愛してんな」


「…………!」


 フシルは耳まで真っ赤にして言葉を失う。

その様子を見て、カルはけらけらと笑った。



「いいねえ、青春」


「あほか! もう青春などという年ではない!」


 憤然とするフシルに、カルはにやにやと笑いながら「まだ二十じゃねえか」と言った。



「おまえな……」


 諦めたようにがっくりとうなだれたフシルは、ふと、カルの言葉に違和感を感じて顔を上げた。



「おまえ今、『も』と言ったか」


「は?」


「おまえも辛い恋をしてるな、と言ったよな。おまえ『も』と。では、カルもなのか?」



 しまった、と苦い顔をしたカルに、今度はフシルが嬉々として「当たりだな」と言う。



「で、相手は誰なんだ」


「……言わねーよ」


「そんなの不公平ではないか。わたしの思い人をカルは知ってるのに」


「おまえ今、リヒターが好きだって認めたな」


「……! ごまかすな!」



 フシルが噛みつくように言ったとき、遠くで「おーい!」と呼ぶ声がした。



 声の方向を見ると、簡素な服に身を包んだラシェルとエルマが歩いてくるところだった。



 なんとなく、ちらりとカルの横顔を見上げて、フシルは小さく笑った。



「なるほどね、エルマ様か。わかりやすい奴だな」