*第三章 太陽と月 1*


 セダへの出立の日は快晴だった。



 王城の庭には、四頭だての大きな馬車が一両。

御者台にはカルが座って、エルマたちの準備が整うのを待っていた。



 早陽の鐘の音が、青い空に響く。



「エルマ、おせぇな……」



 カルがそう呟いたとき。



「カル」


 声がして振り返ると、大きな荷物を二つ肩に担いだフシルが歩いてくるところだった。



「なんだ、フシルか」


「なんだとはなんだ、失礼な」


 カルは御者台から降りて、苦笑するフシルの担いだ荷物を受け取る。



 女のフシルが軽々と担いでいたから、てっきり軽いものだとおもっていた荷物は存外重く、カルはそれでも息一つ乱していないフシルに改めて驚いた。



 荷物を馬車の中の適当な場所に下ろして、カルは御者台に戻った。



 フシルは馬車にもたれたままその場を離れない。

その緑の髪を、ゆるやかな風がふわりと揺らす。



「カル」


 ふと、フシルが言った。


「ん?」


「ラシェル殿下を、頼む。もちろん、エルマ様やメオラ殿も」



 なんだそんなことか、と、カルは笑った。


「言われなくてもわかってる。……あぁでも、ラシェルよりはエルマ優先だけどな」



 任せろ、と笑うと、硬い表情を浮かべていたフシルも笑った。



「おまえもリヒターをちゃんと守れよ」


「当たり前だ」



  茶化すように言ったカルに、思いのほか真剣な声音でフシルは応えた。

カルは思わず、フシルの顔をまじまじと見る。