二人の言葉を受けて、エルマが「どうする」とラシェルに問いかけた。



「……どうしても、行くのか」



「ああ。ラシェル一人を行かせない」



 ラシェルは難しい顔でしばらく考え込んだが、やがて「わかった」と頷いた。



「明日、おれとメオラで街に下りてアルの長代理を訪ねよう。メオラ、いいか」



 カルをエルマの警護のために残しておかなければならないがゆえの人選だろう。


メオラは「かまわないわ」と頷いた。



 それを聞いて安心したのだろうか、エルマは一つ息をつくと、静かに目を閉じた。



 すぐに規則正しい寝息が聞こえ始めた。

その寝つきの早さに、やはり辛いのだろうか、とメオラは眉をひそめる。



「それにしても……」

エルマを起こさないように、リヒターは小声で言った。

「まさか、エルマに毒を盛るとはね。そんなことをしたらまた戦争になるって、あの人のちっぽけな頭でもわかると思って油断していたよ」



 あの人、というのは王妃のことだろう。

リヒターの顔に皮肉な笑みが浮かんでいる。