エルマはリアに荷をくくりつけた。



 今日、エルマはカルとメオラと共に、シュタインの首都であるシュロスに行かなくてはいけない。


夏市での営業許可証を申請するためだ。



 シュタインでは夏の始めに大きな市が開かれる。

シュタインの夏市と呼ばれるその市はヴェルフェリア大陸でも有数の規模で、毎年この時期になると、シュロスは大陸中の商人で溢れかえる。

シュロスそのものが、一つの市となるのだ。


肌や目、髪の色の違う商人たちが集まる市は、それだけで何かの見せ物のようだ。


大陸中の地域の特産品を売る者はもちろん、武器商や薬師、情報屋なども集まり、シュタインの夏市で手に入らないものはないと言われるほどだ。



 普通、市で商売をするには同業のギルドに入らなくてはならないが、世界中から商人が集まる夏市で店を出すには、

夏市の監督を受けもつシュタイン王国宰相のイロ・カリエンテに、相応の税を払って、営業許可証を申請しなくてはならない。



 アルの民は営業許可証をもっていない。

毎年夏市の時期になると、アルの長が申請のためにシュロスに行くが、承認されたことがない。十分な税を用意していても、だ。



「シュタインの伝統たる夏市に、アルのような卑しい流民の営業を認めては、王家の恥だ」


 というのが、イロの言い分だ。

他の裕福な商人からも平等に決められた分の税を徴収しているところを見ると、許可証を渋って税を吊り上げようという魂胆でもないらしい。

イロは本心から国の伝統と王家の権威を守ろうとしているのだ。