*11*


 静かだった。



 先ほどからレガロがせわしなく目の前を行き来しているが、メオラの耳は聴覚を失ったように何の音もとらえなかった。


ラシェルの教育係りであるレガロが城医も兼ねていたことは驚きの事実だったが、今はそれに驚いている余裕はない。



 メオラはもう一刻以上も同じところに同じ姿勢で立ち尽くして、じっと寝台の上に広がる緑の髪を見つめていた。



 本当はレガロの手伝いをしたいが、医学の知識のないの者の出る幕ではないと、ラシェルに説得されてしまったのだ。



 メオラの隣には、ラシェルが寄り添っている。

先ほどまでカルとフシルも隣にいたが、ついさっきレガロの頼みで水を汲みに行った。


リヒターは常に笑顔の浮かんでいる顔をこのときばかりは険しくして、部屋の隅の椅子に腰掛けていた。



「殿下、メオラ殿」



 ふいに、レガロが呼びかけた。



 メオラが顔を上げると、レガロは疲れがにじんではいるが穏やかな表情を浮かべて言った。



「とりあえず、処置は終わりましたよ」



「それで、エルマは」


 尋ねたのはラシェルだ。



「お茶に毒が入っていたようですね。飲み込む寸前で気づいたんでしょうか、幸いあまり飲んでいないので命に別状はありませんし、二、三日のうちに回復するでしょう」


 安心させるように微笑んで、レガロが言った。