*10*


 厨房に入ってランプの灯りをつけたメオラは、そこに思いがけない人影を見つけて、あやうく悲鳴を上げかけた。



「ジラ!? どうしたの、こんな夜更けに厨房に来て。しかも灯りもつけないで」



 そこにいたのは、侍女仲間のジラだった。


メオラと相部屋で、メオラとともにエルマ――ルドリアの世話をしている。



 ジラは別段驚いた様子もなく、落ち着いて答えた。



「喉が渇いて目が覚めたの。灯りは――水を飲むだけだからいらないかと思って。

あなたこそどうしたの? 目が覚めたとき、部屋にいなかったからびっくりしちゃった。どこに行ってたの?」



「わたしは……ちょっと厠に。そしたらさっきルドリア様に会って」



「姫様に? こんな夜更けに?」



「ええ、眠れないんですって。だからお茶と夜食をお持ちしようと思って。ほら、フシル様がくださったお菓子があったでしょう」



「ああ、あれね」ジラはメオラのすぐ隣の棚を指差した。


「その棚の、上から三段目にあるはずよ」



「ありがとう」



 メオラは礼を言って、棚を探る。

探していたものはすぐに見つかった。

それを持って振り返ると、ジラは火をつけて湯を沸かしていた。



「メオラはそのお菓子、器に移しかえてくれる? その間にわたしがお茶を淹れておくから」