二人はじっと息を殺してその場にたたずむ。


開いた扉から誰かが出てきて、エルマとメオラのいるところとは反対のほうへ向かっていく。


どこかゆったりとした鷹揚な歩調の足音はラシェルのものだ。

ではイロはあの部屋に残ったのだろうか。



 足音が完全に去ってから、二人は詰めた息を一気に吐き出した。



「なんか、とんでもない話聞いちゃったね」



 メオラは小声で言った。

その顔がすこし青ざめているのに気づいたのだろう。



 エルマは安心させるように微笑んで、

「だな。おかげで目が冴えてしまった。このあと寝られるかな」

 と言って、困ったように笑う。



 その言葉で、一つ思い出したことがあって、メオラは言った。



「じゃあ、温かいお茶と夜食、持ってこようか」


「夜食?」


「うん。実はね、今日寝る前にフシル様が厨房にいらっしゃって、お菓子を届けてくださったの。

エルマがフシル様と初めて話したときに食べたって言ってた、ルイーネのお菓子。ルイーネにいる親戚にまたもらったから、いくつかエルマにって」



「ああ、あれか」エルマは言って、にやりと笑って見せた。



「そうだな、小腹も空いたし。カルも呼んで、久々に三人だけで話すのもいいかもしれない」


「じゃあ、わたしお菓子とお茶持ってくるね」


「あ、じゃあわたしも……」


「いいから! エルマは先に部屋に戻ってて!」



 そう言い残して、メオラはエルマがまたなにか言うよりも早く厨房のほうへ歩き出した。



(エルマはわたしを足手まといじゃないと言ってくれたけど……)



 だからこそ、自分にできることは余さずしておきたい。



 メオラはそう思った。