そう言うとまた弓の手入れを始めた。エルマもその隣で短剣を研ぎ始めた。



 しばらくすると、野営地からメオラの「ごはんだよー!」と叫ぶ声がして、二人は連れだって荷馬車から出た。



 荷馬車から出ると、入る前は橙色だった空が夜闇に染まり、真っ暗だった。


野営地の中心では一族の者がたき火の周りに集まり、その中心で、長身で茶髪の青年が手招きしていた。


ラグだ。



「こっち」



 ラグの後ろから、メオラがひょいと横に頭を出して言った。


手には二人分のお椀をもっている。


エルマは「ありがとう。」と言ってそれを受け取り、背後にいるカームにも手渡した。炊きたてのご飯の上に、食べやすいように小さく切って数個を串刺しにした鹿肉が三本のっていた。


湯気にのって香辛料の香ばしい匂いがする。



「スープもあるから、そこの鍋から自分でとってね」



 そう言ってメオラが指差す方を見ると、野営地のたき火よりもすこし小さなたき火があった。


その上には大きな鍋が掛けられていて、そこからも美味しそうな匂いがした。



 まずはこちらを片付けようと、エルマは湯気のたつ鹿肉を一口頬張った。



「おいしい。さすが」



 野営地のあちこちからも、うまいうまいと声があがっていた。突然、「メオラ、嫁に来てくれ!」と誰かが叫び、野営地中で笑い声が起きた。



「わたしの旦那はエルマだものー」とメオラが言って、また笑い声が起こる。野営地中に冗談と笑い声が飛び交って、アルの民の夜は更けていった。