「おはよう、一瑠。」


教室に入ると、斉藤さんがいる。


自分の席から、教室に入ってきた私に挨拶をくれた。


「おはよう。」


無難に返す。


なんでったってこんなに早いんだ。


私より早いじゃないか。

クラスには二人きり。


まるで、あの日みたい。

良くない思い出。


斉藤さんがにたりと笑う。


ああ、これはまたよくないことを言われる。


「聞いてくれた?」


唐突な質問だったけど柚奈のことしかない。


浅間君と付き合っているのか。


なにも今日聞かなくもいいだろうに。


なんであえて今日聞いてきてくれるんだ、斉藤さん。


「付き合ってないって。」


「ふうん。」


信用はしてないんだろうな。


それを隠そうともせずに、表情に出す。


嫌な人だ。


はやく、だれか来てよ。

浅間君以外ならだれでもいい。





朝から嫌な日。


今日はまだ、柚奈と話していない。


柚奈が来たのが、遅刻ギリギリだったから。


なら、1時間目が始まる前までの時間も、無意識に逃げてる。


「いっちー、ハロー!」

「おはよう、アキ。」


私のいっこ後ろの席から。


朝から元気なアキに、表情が戻った。


「1時間目は社会ですね!!」


「うん、はやく帰りたい。」


大きく頷くアキ。


授業開始2分遅れで、先生がやって来た。


社会の授業は、相変わらず退屈。


「い~ちるっ!」


授業が終わると、柚奈が来た。


あ、なんか懐かしい。


別に久しぶりでもなんでも無いのに、自分の被害妄想みたいなものから、思った。


なんとなく、今日は話せないと思ってたから。


「柚奈、今日は来るの遅かったね。」


いつもは、ちょっと話す時間がある位の余裕をもって来るのに。


「あはは。昨日、寝るの遅くてさ。あ、今日か。」


私の机に乗りかかる。


「私も。寝たの今日だった。」


つい、あくびがでた。


「うん。4時間も寝てないや。」


「遅いね。なに。ついに告白だからって、寝付けなかったの。」


次が移動のため、まわりに人はいなかった。


なにも言わずに笑う柚奈。


図星か。


「まあ、頑張って。」


それしか言葉が出てこなかった。


すると、柚奈は、また煮え切らないような表情をした。


なんでそんな顔するの。

聞いちゃいけない気がしていた。


「いつ言う予定なの。」

「うん…夜ね、会うから。」


ごもりながら答える。


夜会うから…って、


「え!?」


「あ、ち、違うよ!?」


私が勘違いしかけたことに、気付いて、必死に誤解を解こうとする。


「塾だから!!」


「あ、なるほどね。」


私の誤解を解けて、安堵してから、また慌て出す。


「私、柚奈と塾同じ人とか知らないから…安心して。」


心から、ほっとした様子だった。


「でも。」


柚奈がピクリと反応した。


釘をさすため、続ける。

「でも…事後報告はちゃんとしてくれるんだよね。」


約束したもんね、と詰め寄ると、「わかってるよ」と返した。


「ほ、ほら!あたしたちも早く移動しないと、技術おくれるよ。」


あからさまな話のそらし方に、柚奈にじと目でメッセージを送ったが…


かわされてしまった。