「遅くなってごめんね。コーヒーでよかった?」

「ありがとう」

部屋に戻りコーヒーをローテーブルの上に置くと、翔の手に一冊の本が握られていたのに気が付いた。

「この本が俺と莉乃が付き合うキッカケを作ってくれたんだよな」

翔と付き合い出してから、書店で見かけて思わず買ってしまった思い出の本。

「うん。大切な本だから、本棚の一番目立つ場所に飾ってるの」

「そっか。今思えばあの時、図書室に行って莉乃と会えてラッキーだったな」

「ラッキー?」

その言葉に、ふと数日前を思い出す。

『別に弁償なんてしなくていいから』

『でも……』

『それに、俺的には正直ラッキーだったし』

三浦君のことが頭をよぎったと同時に、スマホの電源をずっと切っていたことに今さらながら気がついた。