静かな廊下にペタペタという足音が響き、頭の中で危険を知らせるかのような警報音が鳴り響く。

逃げようとしても逃げられない。

ゴクリと生唾を飲み込んだと同時に、相手はあたしの目の前でピタリと足を止めた。

そして、充血した目でこちらを見るとこういった。

「みーつけた」

ふっと笑ったその顔に戦慄する。

「ちょっと顔かして」

目の下に黒いクマをつくった好未はあごで指示を出す。

逃げようと思えば逃げられたはずだ。

でも、あたしは逃げることができなかった。

自分の意思に反して、体が動いてくれないのだ。

こんな状態で逃げても、追いかけられて捕まるのは目に見えている。

そして、逃げて捕まればもっと恐ろしいことが起こりそうな気がしたから。

あたしは好未に促されるまま女子トイレへと向かった。