感情など、人間にも死神にも必要ないこと。あったってろくなことないからな。
『…あれ、何かしら?』
『ん?…なんだあれ』
ミュラの指差した所を見ると、遠くから大柄な男が、屋根をものすごいスピードでこっちに向かって渡ってくる。
『あいつ…こっちに来てるぞ』
『見れば解るわよ。それより…なんか手に持ってない?私には大きなノコギリに見えるんだけど…』
『奇遇だな。俺もだ。あんなでかいノコギリだったら人一人楽に殺せるな』
キッ
ミュラに無言で睨まれた。
男はなにか喚きながら、ノコギリを振り回して来る。ありがた迷惑だ。目は血走っているし、口からはツバや唾液が飛んでるし…汚ねぇ野郎だな。
ミュラもそんなことを思ったのか、顔をしかめて若干引いている。
『な、なんなの?気持ち悪い…』
『あいつ…俺たちを殺すつもりなんじゃないか』
『何で?』
『恐らくだが…あいつはリストの最後の女の父親かなんかだったんじゃないか。見えないやつには見えないが、霊感が強いやつとかだとたまに見えてしまうしな。それで家から出ていく俺たちを見て、娘を見たら死んでいた…手には<鎌>。殺されたと思っても可笑しくはない』
俺の長話が終わると、ミュラは納得したように、返事をした。
『成る程ね…。じゃあ私たちは娘を殺した人殺しか』
『そうなるな。…だが俺に刃を向けるものは容赦しない』
<鎌>を構え、男を睨む。


