神と言われるそれをあたしは見たことがある。 この街で言う、鴉の姿。 お兄ちゃんが起こした火事のとき。 あたしの手を掴んでそれを呆然と眺めるコウヅカ越しに、その姿を見た。 全身真っ黒。 髪も服も靴も。 夜に溶けそうな黒を引き連れていて、子供だったあたしにも微かな恐怖を感じた。 何をしにきたのかと、コウヅカに問えば良かったけれど何も聞かなかった。 それは、あたしもコウヅカもどこかその存在を恐れていたからだと思う。