「ちょッ!?穂果(ほのか)!?」
流石に黙っていられず、彼女の名を呼んだ女子生徒が一人立ち上がる。その際に立てていた譜面台が倒れたが、些細なことだ。
しかし穂果と呼ばれた女子生徒は、周りの様子を気にせず男子生徒に向かい、投げつけたファイルを拾う。そしてファイルを手にした右手を頭上に掲げたところで、数人の生徒によって左右から押し留められる。
「ちょッマジ落ち着いてって!!」
「駄目ですってば先輩ッ!いくらなんでもッ」
周囲から落ち着いてと声を掛けられたが、結局、彼女が冷静に話が出来るなるまで数分かかった。その間、事の原因となった男子生徒は呆然としたまま身を固くしていた。
そして、彼女はそれまでとは違う、戸惑った表情を浮かべながらこう言った。
「何で、あんなことにムカついて、あそこまでカッとなったのか判らない」
自分の行動を酷く恥じる彼女は、申し訳なさそうに顔を伏せた。


