「落ち着こうよ、蒲生(がもう)君」
「え……あ、あぁ」
冷静に声を掛ける裕晶に対し、蒲生と呼ばれたは素直に返事をした。
その反応に裕晶は違和感を抱く。つい先程箸を人に向けて振り下ろそうとした人の態度にしては、やけに大人しい。
「あ……わりぃ。……何か、急にムカついてきて……でも、何であんなにキレたのか、判んねぇんだけど……」
蒲生は、心ここにあらずといった表情で裕晶を見る。急変とも言えるその態度に、裕晶は「そう」としか言えなかった。
落ちた筆入れを拾い、机の中に入れる。そして、この件はおしまいとばかりに、裕晶は食事を再開した。内心は戸惑いで渦巻いていたが、蒲生本人も自分自身に困惑していた様子から、これ以上は何も聞き出せないし、そもそも自分には関わりのないことだと判断する。
そんな裕晶の行動に、周りの生徒達もそれぞれのグループ同士の会話を再開し、いつもの昼休みの風景となろうとしていた。
裕晶の隣からは、蒲生の謝罪の言葉と、その言葉を受け取り「もうやめろよなーあんなこと」と明るく返す声がしていた。


