自分が制裁を加えなかったせいで彼等は立ち上がり、裕晶と――ゴトウにも手を出そうとした。そのような理屈で裕晶はゴトウに謝った。


「いや、何でそうなるのか判んねぇんだけど、裕晶のせいじゃないな、うん。だから謝罪は撤回しろ、な」


だが裕晶の理屈はゴトウには通じず、むしろ戸惑ったように否定する。


「ありがとう」


「礼もいらねぇんだけどなぁ。――まあいいや、俺もそろそろ帰るわ」


ゴトウが立ち止まり、裕晶はそれより数歩進んだ所で歩みを止めて振り返る。


「気ぃ付けて帰れよ。連続殺人事件の犯人、まだ捕まってねぇんだし」


「判った。それじゃあ、さよなら」


図書室での会話を用い、おどけた口調のゴトウと別れの言葉を交わし、裕晶は前を向いて歩き始める。


二、三歩歩いてすぐに、立ち止まって振り返ってみた。曲がり角のない直線上には、既にゴトウの姿はなかった。走って学校に戻ったとして、姿が見えなくなるような距離はない。


「…………」


もう驚かないと、心に決めた。