「そうだ、何の話だっけ」
一瞬の出来事の後、明は話を元に戻そうとする。
「……えーと、何だっけ?」
「誰かに話し掛けるなら、どんな話題にするかじゃない?」
「……そうだっけ?何か違くね?」
「……そう言われたら自信なくすけど」
そんな感じの話をしていた気がする。
一度話が途切れると、元に戻すことは難しい。そういう訳で、釈然としない思いはあるが、裕晶が言った内容で話を続ける。
「そうだね。俺だったら取り敢えず、好きな天気を訊いてみるかな」
「……天気、ですか」
好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味に続く無難な質問なのだろうか。答えやすい質問である。
「そういやお前って、天気に思い入れあったな。明は確か晴れが好きだっけ」
「晴れじゃなくて、快晴だね。見渡す限り、雲が一つもない空。季節は秋だったら最高だね」
相手のことを知っている。このことから、ゴトウと明の間には確かな結び付きがあることが判る。裕晶にはないものだ。教室でも見られるが、こうして目の前で見せ付けられると、捨てたはずの羨望が、ほんの少し沸き上がる。


