ここでゴトウが思い出したように明の方を振り向いた。
「なあ、明はどう思うよ」
二人の会話を黙って聞いていた明にはどんな意見があるのか。裕晶も、明が座っているカウンターの方に視線を向ける。
視線の先にいる明は二人を見ていなかった。図書室の扉に顔を向け、ヒラヒラと手を振っていた。二人は釣られてその方向を見やる。
見えたのは三人の男子生徒の後ろ姿。彼等は立ち止まることなくそのまま歩き、裕晶の視界から消えていった。
「あれは、熊崎(くまさき)と長谷部(はせべ)、安東(あんどう)のバスケ部三人か。知り合いだっけ?」
「熊崎は今年から一緒のクラスだけど、あとの二人は知らなかった。顔は見たことあるけどね。ガラス越しにこっちを見てたから手を振っただけ」
「あの一瞬で誰だか判ったの?」
「校内で起こってることだったら何でも知ってるって言ったろ?まあ、誰が何を話してるとかはリアルタイムでしか判らないけど、意識を張り巡らせたらどこに誰がいるかくらいは余裕で判る」
つい数分前までは普通に会話をしていただけあり、改めて見せ付けられたれたゴトウの特異性に、裕晶は不意打ちを食らったような気分だった。


