「……もう、いっちょ前に主役張れるようになったんだね」
「おう」
「はやいね」

おう。

嬉しそうに頷いた彼の一言に凝縮されている、主演への思いの大きさ。それはきっと、誰にも図り知れない。

頑張った証。
諦めなかった証。

彼が今まで地道に築き上げてきた礎は、ちゃんと、彼を支えてくれる。


私にはできなかったことが、彼には、できる。



「……那智に会いてえなー」

彼のそんな呟きに、私は心から頷いた。何度も何度も。声には出さずに。

そうだね。会いたい。
私もずっとそう思ってた。
ずっと会いたかった。


でも。

きみはテレビによく出るようになった。雑誌でも特集を組まれるようになった。
ついにはドラマで主役を演じるようになった。

毎日が忙しく、充実していて。

岸本一瑠はもうそんなところまで進んでしまった。


ああどうりで、遠くなったなあって。
届かなくなっちゃったなあ、って。


だって私は夢を諦めてから、きみを目で追ってばかりで、きっとまだ一歩も前に進めていないんだよ。

私がずっと見てきたきみは、もうとっくに私だけのものではなくなってしまったのだと、


ちゃんと、わかっていたのに。



「もう少し先の話だけど、ドラマの撮影が終わったら休みもらえるみたいだから。そしたらお前のとこに」
「――来なくて、いいよ」