「なかなか連絡とれなくてごめんなー。久しぶり」
「……今日は、どうかした?」
「いや、どうもしてないけど。那智の声が聞きたくなって」
私も聞きたいって思ってた。ずっとずっと。毎日。
……その言葉は飲み込んで、わざと明るい声を出す。
彼が聞きたがっている、私の声を。
「あ、さっきね、ドラマ見たよ。『シンデレラ・ナイト』」
「おっまじで!どうだった?」
「一瑠、出番少なかったね。主役のくせに」
「うーるーせー」
来週からバンバン出まくるし!
そのふて腐れたような声に、私は笑った。胸の奥がほこほこあたたかくなっていく。
どこか妖しくて、色っぽいシロガネとは違う。本来の彼。アクターズスクール時代から変わらない、本物の岸本一瑠。
くだけた口調も、ほんの少し子供っぽいところも全部さらけ出した、私のよく知る彼だ。
「でも面白かったよ。幸恵のキャラがすごく好き。西宮さんってどんな役でもこなせるよね」
「俺は?」
「んー……出番少なすぎてよくわからなかった」
「うわっ、ひでー!」
うそ。ほんとはわかってる。
きみは良くなったよ。あの頃とは比べものにならないくらい。
本当に、良くなった。
圧倒された。釘付けになった。
でもやっぱり、そのことを直接伝えるのは、なんだか照れくさいから。


