画面の向こうで妖しく微笑み、手を差し延べるシロガネ。
戸惑いながらも彼の手を取り、一歩を踏み出す幸恵。

運命の扉は開け放たれた。もう後戻りは不要。
ガラスの靴は、――君のもの。



「すごい……」

その日の夜。新ドラマの第1話の放送が終わった後も、録画を再生して何度も何度もラストシーンに見入った。

彼の妖艶で、何かを企むかのように幸恵を映すその瞳を。
こちらまでうっとりと誘惑されてしまいそうな、甘く響く、その低い声を。


これが今の岸本一瑠。

圧倒的な存在感と演技力をもつ、「主役級」の俳優。

私のもとから離れて、私の見えないところで彼が掴み得たものは、こんなにも、大きい。



「……っ、」

詰まりそうになる胸を押さえながら、手元に置いていた携帯をぎゅうっと両手で握りしめる。


いちる、


声には出さず名前を呼べば。

不意に、着信を知らせる音が手の中で鳴り響いた。




「も、しもし……」
「ははっ、なにその変な声」

一瞬誰かと思った。

通話を始めて開口一番、そう言って笑った彼は、今まさしく名前を呼んだ彼――岸本一瑠で。

久しぶりの電話に少し戸惑い、からからになった喉からうまく声を出せない私を、彼は


優しく、那智、と呼んだ。