その夜、祖父母から肝試しへ行くように誘われた。
「あんた、一日中家の中にいたら身体が腐っちゃうよ。行っておいでよ。」
「だからって夜中に出歩くこともないじゃん。しかもそれくらいじゃ腐らんよ。クーラーかかっとるし。」
冷奴を突く箸を止め、頬を膨らませて反論してみたが、隣りに座っていた祖父に頭を軽く叩かれただけだった。
やはり彼等は地球にも孫にも厳しいようだ。
渋々、その日の夜八時、礼人君にメールを送って家を出た。
外へ出るのは、本当に久しぶりのことだった。
ふと何処かで見たようなものを見てしまうと、それに関係する思い出が頭の中に溢れ、息をすることすらも苦しくなってしまっていたから。
此処に来て良かったことなんて、ほんの少ししかない。
星空が綺麗だということ。
時間が過ぎていくのがゆっくりだということ。
そして、礼人君に出会えたということ。
本当に、それだけだった。


