不謹慎ラブソング

「過去の原稿が一枚ぐらいなくなったって構わないようなものだよね?」
 
『え?』
 
先ほどとは違い、すぐに慌てたような反応があった。

私は思わず笑いを溢しながら、鞄の中に入れてあったファイルをそっと取り出して一枚ずつめくり始める。
 
『何のこと言ってる?』
 
瀬田も薄々は分かっているらしく、焦りを露わにしていた。
 
「嘘をついて手に入れた物なんて、全然必要ないでしょ?」
 
保存状態が悪く、少しだけ虫に食われた黄ばんだ紙。

一行目は上を三マス空けた状態で『雨跡』と書かれていた。
 
「『雨跡』じゃなくて『雨痕』でしょ。」
 
私は小さく呟いて、原稿の束を縦に裂いた。

外は確かに雨が降っていて、通りを走る車が水しぶきを上げていく。


裂かれてアスファルトに落ちた原稿は、じんわりと水を含んでアスファルトの黒色を透かし、やがてはべちょべちょと地面に張り付いてしまった。