勿論今日、楓とあたしの家で朝会う約束した覚えはない。

それもさっき彼女はあたしの部屋をノックして『雪穂、起きてー! 朝だよ!』と言って入ってきたのだ。

いつもなら目覚まし時計がする仕事を楓がしたということになる。


そこで漸く捉えることが出来た彼女はとてもとても怒っているように見えた。

それはもう般若、とまで言うと怒られそうだからやっぱり、やめておこう。


「心配して来てあげたらなんなの、このいつものボケ三昧。早く着替えて支度しなよ。ばーか!」


いつものボケ三昧ってなんだ、あたしはボケてなんかないと言ってやりたかったけど、更に怒りを買いそうだからと飲み込んだ。


「ま、待って、その前になんで楓が此処にいるの?」


なんとかして楓があたしの部屋に来るに至った経緯を聞こうと食い下がる。


「迎えに来たんだよ。それよりほら、寝癖酷い。早く支度しないと遅刻するよ」


はぐらかされた、と思った。

ほんとはそんなことを言う為にわざわざ此処へ来たわけじゃないでしょって言いたかったけど、言えなかった。

きっと昨日起きたことの話をしたいのだろうと思ったから。

楓は、どこまで知っているんだろう。

もしかしてもう噂になってるのかなあ。

思わずため息を吐きそうになるのをなんとか寸でのところで止める。