「 あ!海翔 いた!」
「 星香!なんだよ… 赤津~ 」
星香を見た赤津は俺に首を左右に振る。
「 海翔、一緒に帰ろ~ 」
「 ちょ、離せ 星香!愛弓がケガし… 」
「 それくらい大丈夫でしょ、礼司が送るって、ほら行くよっ」
「 海翔、愛弓ちゃんならちゃんと送るから 」
俺は愛弓を追いかけないと一旦決めた。
だから、今 愛弓を追えない勝手なジレンマで苦しかった。
たかが指の切り傷、されど愛弓の傷ついた指の切り傷。
赤津がいれば心配ないのはわかっているが、俺が愛弓のそばにいたかった。
勝手だな、俺は…
「 いいかげん離せ、星香 」
「 逃げるでしょ、離してやんない 」
「 星香、俺追っかけても… 」
「 黙って!」
星香が俺に告白してきたのはかなり前だが、俺は当然 無視。
俺には愛弓がいたからだ。
愛弓とは付き合ってないから諦めないと、星香は俺が愛弓を追うように追ってくるんだ。
でも、星香は俺の気持ちが愛弓から離れない事をわかってるはずだ。
気持ちはわかるよ、それでも、俺は愛弓に惚れてるから余所見しねぇ
愛弓が俺を選ぶまでは絶対にあきらめねぇから。
嫌々ながら星香についていくが、赤津と愛弓は二人で帰宅準備をしていた。
「 赤津くん、私 大丈夫だけど。」
「 何言ってんの、送らなかったら海翔の逆襲に合うから送らせてよ 」
「 でも… ケガって、指切っただけだよ 」
「 まぁね。でも、海翔には愛弓ちゃんのケガに大きいも小さいもないと思うよ 」
なぜか赤くなる愛弓に、赤津が気づいて聞いた。
「 愛弓ちゃんさ、なんで海翔 嫌うのかな?けっこういい奴だけど… 」
「 き、嫌ってなんか!ないよ… そんなふうに見えるの?」
「 うん、かなり 」
「 そうなんだ… 別に嫌ってないのにな 」
赤津にも愛弓の気持ちは掴めない。
だから、意地悪心がくすぐる。
机に鞄を置き、愛弓の立つ机に両手をついて、愛弓の左右を奪う。
「 赤… っ!?」
「 あのさ… 愛弓ちゃん、海翔じゃなくて俺ならどうかな? 」
「 え…… 」
「 海翔から逃げるくらいなら俺と付き合うのはダメ?」
真顔で驚く愛弓だが、突然 ふわりと笑った。
赤津はそれに驚いて愛弓を見つめている。
「 赤津くん、笑ってごめんね。でも、なんか赤津くんっぽくないなって思って… それに、嘘でしょ? 私となんて。」
「 ふぅ、まいった。お手上げ~ 愛弓ちゃんの勝ち。」
スッと愛弓を塞いでいた手をどかすと、赤津は愛弓の横の席に腰を下ろす。
「 愛弓ちゃんの気持ちは、ほんとはどっち? 」
一人帰ろうとする愛弓に投げかけた赤津の言葉に、愛弓が一言だけ言った。
「 好き… 」
手を振り教室を出た愛弓。
それを見送る赤津…

