私と隆太君のいつもの毎日の始まりは、教室の中で挨拶。

その何気ない挨拶が、今日で最後だと思うと、声をあげて泣きたくなる。

ていうか…、教室の中に入りたくない…。

そんなブルーな私が、トボトボ廊下を歩いていると。大好きな声が横から聞こえた。

「…優未、おはよう」

「…あ、隆太君…。おはよ!」

私は、今日言う答えが察しられないように、いつも通り元気に挨拶を返した。

「…優未、目真っ赤だよ?どうした?…悲しい事でもあった?」

「ぇっと、ねぇ…。泣ける映画を見て、泣いちゃったんだ!」

「……ふーん」

隆太君は、私を疑うようにして相槌をうってきた。

少しの無言の後。私は、勇気を振り絞って、一旦立ち止まって隆太君に話しかけた。

「あのさ。隆太君、今日話があるんだけど…。…放課後、いいかな?」

「……嫌だ」

隆太君は、無表情で答えた。ちょっと、怒っている感じがして。

「へ?!」

「…なんか、嫌な感じがするから」

「……………」

図星を当てられ、私は何も言えなくなる。

「……別れ話は、絶対言わせないから」

「…でも、話だけでもいいかな?…時間は余りかけないから…」

「…嫌な話だったら、途中でいなくなるから」

「うん。分かった」

「…じゃあ、教室行こっか」

隆太君は、スッと手を私に差し出した。私は、少し躊躇ったけど。
多分、今日で隆太君に触れられるのは最後だから…。最後の…隆太君の温もりだから…。

私は、思い出に残す為に…。強く強く…、手を握り返した。