でも この時の綾女は真剣だった。
ただ俺には不愉快で、綾女のする事が驚きで困惑してたんだ。

あったけぇ手してんな、コイツ…

「 澤村くん! 聞いて! 澤村くんのボールが当たった花はね、特別だって言ったでしょ? この黄色い花はね、イエローサルタンって言うの… 花には花言葉って言うのがあるんだよ、知らないよね?
この花の意味はね 強い意志。強い意志だよ、澤村くん 」

まさか… 俺を慰めてんのか?

「 へぇ、で?」

「 意志まで負けたの? 」

え… 意志? 俺の意志…

「 はい、ボール。大事なボールを適当扱いしちゃダメだよ?花も水やりない日でもちゃんと花の意志で花を咲かせるの。
意志まで負けたら、次 勝てないよ?
ね、ボール!そうだよね~ 」

ボールをポンと軽く叩いて立ち上がる綾女。

俺は困惑していたはずなのに、逆に拍子抜けしていた。

花を語られても俺にはわからないし、意味のないものだ。

だけど… 綾女言われた 意志まで負けたのかと、ドキドキと緊張に似たキツネに摘ままれたような一瞬の気持ち。

俺は花を見て呟いた。

「 イエローサルタン… 」

バスケをやるにも適当でやってきたわけじゃない。
本気でやって、負けたから悔しかった…
今このまま落ち込んでも次勝てないのは確かだ。

強い意志。

「 おい、あんた… 」

「 ん? 次は勝てるよ、イエローサルタンはまた咲くから。じゃあね!」

綾女はそのまま去って行ったが、俺は綾女の後ろ姿を見つめていた。

「 花、どうやって直すんだ? 」

わけがわからず、折れてしまった花を横に避けて、土を整えて、ペットボトルから水をやってみた。

こんなもんか?いいのか?わからん…

俺はその場を離れようとして、花に振り返った。

帰りにグランドを歩きながら体育館前を通りすぎると、青いバケツとジョーロ片手にした綾女が視界に入った。

あれ… 今、アイツか?

俺はふいに後を追うと、先程の花を植え直しにきていた。