駅へと入ろうとした矢先、視界の隅に1人の男性が移り込んで来た。

色を抜きすぎて傷み切った髪と、よく焼けて荒れた肌、胸元に光る下品なネックレス…。
絵に描いたような「危ない人」に、私は喉を鳴らした。

――やだ、ナンパ?

そう私が思うより早く、男性は私へ通せんぼをした。

「お姉さん、今ちょっと良いッスか?」

軽い口調ではあったけれど、喋り方はどことなく優しかった。

年端もいかない女性を怯えさせない為の、最低限の配慮なのだろうか。
その場に腰を屈ませて、視線を私と合わせてくれた。

慣れているんだな、と感心しながらも、私の緊張は指先にまだ残っていた。

「あっちのビルで、今丁度、アウターのモデルの撮影やってるんだけど。
もしお時間あったら、ちょっとで良いから写真撮ってかない?」

小説やドラマでお馴染みの台詞だった。
それでもいざ自分が言われてみると、胸は少しだけ弾む。

予備校の講義と、怪しげな業界の撮影。
天秤は一向に動くことなく、私の口を塞いだままでいた。

「ちょっと写真撮るだけで良いしさ!
ほら、お姉さんって背高いし、線細いし、顔綺麗じゃん?」

男性はスラスラとお世辞の常套句を並べながら、私の顔色と自分の足下へと何度も視線を行き来させた。