「そうだね。私もお願ごとしてみようかしら」

エレナは足を止め、ぽつりとそういう。



「そうしたらいいよ。このモミの木は一番高いって僕が保証するから」

「ありがとう。じゃぁ私もここでお願いをしていくわ」

そういってエレナが髪を結っているリボンに手を伸ばした時。

ボロッと、それは何の前触れもなく崩れた。

腐敗しかけていた梯子の足元が崩れ落ちたのだ。

不意を突かれ、エレナの体が宙に投げ出される。



「お姉ちゃん!」

足元を失ったエレナは何とか片腕で自分の体を支えた。

エドの声には応える余裕はない。

エレナはもう一方の手を持ち上げ、一段上の足元に上ろうとした。

しかし、片方にかかっていた体重により梯子が傾き、モミの木に立てかけていた梯子は真横に倒れた。



「きゃッ……」

小さな悲鳴の後、エレナの体は地面に投げ出され、白い粉雪が舞い上がった。

雪の深さはせいぜい二十センチほどであり、クッションになったとはいいがたい。

しかし、不幸中の幸いか、エレナがいたのは梯子の真ん中であったため最悪の事態にはならなかった。



「お姉ちゃん!大丈夫!?」

エドが叫びながら駆け寄り、エレナの上に覆いかぶさった梯子を退ける。



「な、なんとか…」

仰向きになったエレナは心配そうに覗き込むエドに微笑んだ。



(嘘…本当は足首がちょっと痛いけど)


落下するときに梯子に足が絡んで捻ってしまったらしい。

エドに心配をかけるわけにもいかず、エレナは何とか上半身だけ起こす。