「ちょっ…離せっ!」 嫌だ。 嫌だ、嫌だ。 腕に伝わる明らかに "男" を感じさせる力強さ。 ゴツゴツとした大きな手。 「嫌だ、離さねー」 壁はそう言うと歩き始めた。 背が高い分、足が長いから歩くペースが速く ぐんぐん進んでく。 いつもと違う少しだけ低い声と真面目な顔に何も言えなくなってしまう。 ヘラヘラした顔しか向けられたことがなかったのに。 どうして良いか分からなくなって私は 同じようにどうして良いか分からなくなって立ち尽くす市原くんを、姿が見えるまで見ていた。