尾関が成美を殴ったって聞いたとき。
すっげー腹が立った。
俺の幸せを壊すなよ、って。
尾関を殴り返してやろうかとも思った。
――……だけど……。
尾関が成美を殴らなかったら、俺はいまだに成美と付き合い続けていた。
成美の真意にも、自分自身の気持ちにも、何ひとつ気づかないままで。
「……章吾?」
「ちょっとメールしてくるわ」
「なんだよ、まだ成美ちゃんに未練があるのかよ」
「うっせー!」
携帯を片手に教室を出た俺は、トイレの個室へとこもった。
制服の、ズボンのポケットの奥に手を突っ込む。
忘れられたかのように、そこに閉じ込められた、固い小さな塊。


