風がピュウッと吹くと、私は身震いして、体をちぢこました。


すると、ふわりと、首もとに柔らかくて、暖かい感触がした。
光さんが、マフラーを、私の首に巻いてくれている。


「学校に置きっぱなしのものだったから汚いけど、良かったら使って。…返さなくていいから」


光さんはそう言った。
大人っぽい、紺色のマフラー。


良い匂いがするけど、光さんの香水の匂いだろうか。


「それじゃあ、またどこかで会えたらいいね」


「そ、そうですね」


最後に光さんはニコリと笑って、先ほどに人混みの中へ戻っていった。


私は、最後まで…何も言えなかった。


もう、会う事も無いはずなのに。


私は重い足取りで、家に帰った。


「花憐ちゃん、卒業おめでとう!」


家の中には、いとこの樹里(じゅり)がいた。


内側から溢れ出るような樹里の優しい顔を見ると、ポロポロと涙が止まらなかった。


樹里は心配そうに、私の背中を撫でてくれた。


“またどこかで会えたらいいね”


そう、光さんは言ってくれた。


…私も、そう思ってても、いいですか?