結婚と同棲。


一緒に暮らすと云う点では同じだけど、その形は全然ちがう。


どうしたって他人のままでは越えられなかった壁。

それが全てなくなって二人はひとつになっていき、新たな形を築いていく。


たとえば、
社会的な事。経済的な事。

それから……家族の事。






「やっぱり緊張しますね」


そう言いながら大きな手が器用に結ぶのは渋目のボルドーカラーに織柄の入ったネクタイ。


「大丈夫だよ。紗和己さん、うちの家族に気に入られてるんだから」


ネクタイをキュッと締める彼の姿を見ながら、私も髪をサイドでひとまとめに結び、ネクタイと同じボルドーカラーのシュシュを選んで飾った。


いつもより少し…ううん、かなり気合いの入ってる私たち。

当然です。だって今日は結婚に向けての第一歩『家族への挨拶』をしにいく日なんだから。


今日は鈴原家に行くので私はまだ少し気が楽だけど、紗和己さんはやっぱりプレッシャーとか感じてるのかな。


口では『緊張する』とか言ってるけど、やっぱり私の目にはいつもの彼とあまり変わらなく見えて。

その姿に、頼もしいなと秘かに惚れ直してしまう。


「さ、行きましょうか」

支度の済んだ紗和己さんはそう言って私を振り返ると

「…ネクタイとお揃いの色のシュシュですね」

と目を細めて、嬉しそうに微笑んだ。