杏梨にとっては雅人に愚痴を言えることは素直に有難いし、雅人の、自分の意見を聞いてくれながらも最後には必ず雅人自身の意見を言ってくれるところに好感をもっていた。ただ、その好感は確実に〝恋愛感情〟と呼べるようなものではなく、〝親愛〟に近いものだと杏梨は認識していた。それにおそらくは雅人も杏梨に対しては似たような感情を抱いているはずだとも思っている。その証拠に何度も言われている。

「藤峰さんは本当に話しやすい。いつもありがとう。」

 これは、恋愛感情のある相手に言う言葉ではないんじゃないか、と杏梨は常々思っている。とはいえ杏梨の恋愛経験値などいつからないのかというほどにないし、アテには全くならないが。

 しかし問題はここではない。杏梨と雅人、当人の認識では二人の関係は間違いなく『なかなか気の合う、話しやすい同期』でしかない。それなのに、周囲はそうではないことが問題なのだ。

(確かに職場でよく話すし、私も素になってることもいっぱいあるけどさ!でも付き合ってるわけないじゃん!)