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 時が過ぎるのは早い、とはよく言われるものだが、年齢が2桁になってからであったように思う。そして、社会人になってからの3年間は3秒だったのではないかと思われるくらいにはあっという間だった。
 杏梨は結局、初任校の3年間で2、3、4年生を経験し、別の学校に異動となる。異動になるのは雅人も同じで、今日はその送別会だった。

「杏梨ちゃんと山岸さんがいなくなっちゃうなんて寂しい~!」
「ほんとよね。」
「二人とも初任って言えないくらいにしっかりしてた!」
「「ありがとうございます。」」

 こうして二人でセット扱いされるのも、おそらく今日で最後だろう。そう思えば寂しいとまで感じてしまうのだから、本当に感情とは身勝手なものだと杏梨は思う。ただ、今日はとにかくひたすらに、寂しい。涙をぐっと堪えて唇を噛むのに必死だ。

「電車、そろそろなくなるぞー。早く出ろー!」
「はーい!」

 ホテルでの一次会、カラオケでの二次会が終わり、本当にこれで終わりだ。この学校の、このメンバーの職員と顔を合わせることも、雅人と同じ学校にいられるのも。初任と言われる3年間も。
 自分は一体、この3年間で何を身につけたのだろう。それはおそらく、次の学校に行ってから分かるのだろう。次の学校に行くのが妙に怖い。行けば行ったでなんとかやっていけそうな気がしないでもないが、上手くできなかったらどうしようという不安の方が今は大きい。この学校は、自分にとって良すぎた。職員が優しかった。子どもが素直で可愛かった。そして何より、話しやすい同期がいた。

「藤峰さん、帰ろう?」
「あれ、他の先生方は?」
「みんな方面逆なんだよね。こっち方面に乗るの、俺と藤峰さんだけ。」
「あ、そうなんですね。ごめんなさい、ぼうっとしてて。」
「ううん。大丈夫。さ、行こうか。」
「はいっ。」

 こんな何気ないやり取りも、もうじきできなくなる。杏梨と雅人の関係は、ただの同期だ。恋人じゃないし、友達でもない。そんな関係は、きっと脆い。