憂鬱で憂鬱で仕方がない。思えば思うほどに溜め息しか杏梨には出て来なかった。

「…なんでこんなことになったのよ…。」

 こんなことになることを望んでいたわけじゃなかった。むしろどうしてこうなったのか、真剣に説明をしてほしいし、どんな顔して会えばいいのかも教えてほしい。

「…思い出すだけでも…無理。」

 最寄り駅から歩く道すがら、星を仰ぎ見る。泣きたいわけではもちろんないけれど、思いの外傷ついている自分に少なからず驚く。自分がこんなに繊細だったことは、最近を振り返って考えてみてもほとんどないはずだ。

「こういうときだけ女子っぽくて嫌になる~…。」

 もう一度深い溜め息をこぼして、もやもやした気持ちだけが渦巻く胸を服の上からきゅっと押さえた。

(…せっかく仕事が楽しくなってきて、やりたいこともやれることも増えてきたのに…。考えなくちゃいけない余計な案件増やさないでよ…。)

 独身だからこそやれることが今はたくさんあると思っているし(もちろん、既婚で子持ちの気持ちがわかるというのも教師としては大事なことであることもわかってはいるけれど)だからこそ、今は仕事のことだけ考えていたかった。杏梨の当面の目標は何といっても3年で一人前になることなのだ。仕事と恋愛のどちらもソツなくこなすことができるほど自分は器用ではないことも知っていた。

(…ほんと、どうしてこんなことになった…)

 考えても考えても、それらしき答えも見つからない。ただ、今一つだけ言えるのは、杏梨と雅人の関係は、本人たちの認識と傍から見た理解に大きなずれがあるということだ。