花の代わりに雪を枝につける桜の木。
校庭の木の中で、一番大きな老木。
それを見るともなしに見ているようだった。
「桜、好きなの? まだまだ咲かないよ」
くもる窓を手で拭きながら言う。
少女は目をパチパチさせて十夜を見上げた。
もしかして、桜を知らないのではないだろうか。
そう思った十夜は次の日、図書室で植物図鑑を借りてきて、彼女に桜の花を見せてやった。
少女は目を輝かせ、食い入るように図鑑を見ていた。
やはり桜を知らなかったのだ。
あんなに綺麗な花を見たことがないなんて、かわいそう。
十夜は少女に早く、桜を見せてあげたいと思った。
しかし春はまだ遠く、冬は始まったばかり。
十夜が早くと願っても、時間は早くは進まない。



