「そういえば、さ」

「?」

ハルキが、神妙そうな変な顔してる。

どうしたのかしら?

「…あの、本。どんな内容だったんだ?」

…何を言われるかと思ったら、まあ。

「…知りたいの?」

クスッ。
つい笑ってしまうと、ハルキは子供みたいな顔で唇を尖らせた。

「あっ、当たり前だろ!?雪、読みながら泣くし。急に墓参りするとか言い出すし…」

う。
まあ、確かに迷惑かけたわ…。

でも、あの思い出を言い表すのは難しいし、そもそもあれはわたし宛ての慕情とか後悔や懺悔の言葉で溢れてたし…

ハルキに言っていいものかしら…?

「そうねぇ…あれは…」



ー愛してる。
狂おしい程に、永遠に君を愛している。

守りたかった。そばに居たかった。君と花の蜜を吸って笑いあったあの輝く様な時の中に、ずっと酔い痴れていられたら、それだけでよかったのに。

例えそれが許されぬ幻でも、君が望まぬ未来でも、願わずにはいられなかった。

君が死んでも、君が私を呪っても。

私は君に、伝えるべき想いがあったんだ。




「…………雪?」

怪訝な顔をするハルキに、わたしは微笑んだ。


菊村様がどんな思いでこれを綴ったのか。

村の英雄が、村の長となるべきお方が、退治した化け物への恋情を残すだなんて、許される筈ないのに。

それでもずっと録っておいた菊村様。

わたしと父様を殺したことを、後悔し、償い生きた悲しい人。

寂しがりなくせに人間不信で。
でも誰よりも愛情深いあの人は、本当に…

誰かさんに、そっくりね?


人差し指をのばして唇につける。


「ーーーーー不器用で優しい初恋の人からの、廃れた恋文よ」


まだ、ハルキには教えてあげない。