数日後。

桜色に染まる春の陽射しに包まれて、真っ白い髪が風にたなびいた。

わたしは、墓石の前に一人、佇んでいた。

「…お久しゅうございます。菊村様」

ハルキから渡された、菊村様の書いた雪女の物語。


そこには、懺悔の言葉が並んでいた。


あれから、何百年の時が経ったのだろう。

「菊村様は、わたしの父様の願いを、汲んで下さっていたのですね」

父様が、菊村様に殺してくれと頼んだのだ。

わたしを、助けるために。

「…ごめんなさい。わたしは、それを無下にしてしまいました」

絶望して、自ら罪を作って、挙句勝手に怨んで…本当に馬鹿みたい。


「でも…菊村様は、それをずっと後悔してらしたのですね」

菊村様はいずれ村を統治するお方だったから。

わたしへの処罰も、父様への処罰も、菊村様が決めなければならなかったから。

「…貴方が書いたわたしの物語。読みました」

いろんな事が、菊村様の視点で。

わたしと話した些細な内容も、楽しかった日々も、狂ってしまうような苦渋の決断も。

懐かしくて、胸が苦しくなりました。
嫌な思い出ばかりじゃ決してなかった。

化け物でも次期村長でもなくて、ただの普通の人間として、笑い合って触れ合った。

嬉しくて楽しくて、幸せだと思える瞬間は、いつだって菊村様がわたしに教えてくださったものでした。

「…菊村様は、わたしに…」

恋…してくださったのですね。

だから、わたしに優しくして下さったの。

「……わたしも…慕っていたのですよ?」

だから、ごめんなさい。



そして、…さようなら。



桜が舞う、雪がとけたこの世界で、

ハルキが…待っているから。